矯正トラブルのニュースについて

矯正トラブルのニュースについて

院長の下谷です。

マウスピース矯正「インビザライン」のモニターになってもらう代わりに治療費を実質無料にすると言う謳い文句の歯科医療法人にて、当初予定していた返金が滞っているとの事で、訴訟請求をされているとの情報を様々なところから聞きました。

今回の論点はおそらく

・返金すると言う契約を反故にされた金銭トラブル
・メインで担当すると言っていた、担当症例数の多いとされるドクターが途中で法人から離脱したが、そのことを患者の多くは把握していなかった
・医院が閉院状態のため治療が先に進まなくなった

の3点がニュースなどを読む限り問題であり、マウスピース矯正治療で歯列が治ったか治らなかったかは、まだ現状そこまで問題にはなって無いように思われます(終了を待たずして主治医が離脱してしまったようなので、この法人で最後まで治らないことはほぼ決まっており、今後誰が最後まで治療するかも論点になりそうではありますが、、、)

一方でマウスピース矯正に関して私自身も10年ほど前から興味を持って取り組んでいましたが、治療の難しさを感じており、ここ数年は新規の患者様の治療は行っていません。

以下に私自身がこれまでマウスピース矯正で悩んだことや、治療に興味をお持ちの患者さん、自院に取り入れたいと考えていらっしゃる先生に向けての私見を述べさせていただきます。
もちろん日本矯正歯科学会の認定医でも無い一開業医個人の意見です。全ての術者、患者さんに当てはまらない点も多分にあることはご理解ください。

まずマウスピース矯正治療は現状でも適応できる範囲がかなり狭いと考えます。古い論文にはなりますが、欧米人で抜歯矯正を行った患者さんは全体の20%台だったことに対して、日本人では60%以上だったの報告がありました。
マウスピースで抜歯しての治療はワイヤー矯正よりも難しく時間がかかることが多く、さらには奥歯が咬まなくなるリスクも伴います。

私も自身の浅学が原因で何名かの患者さんで奥歯が咬まなくなってしまい、そのリカバリーにワイヤーを使いました。
結果としてはある程度の仕上がりにたどり着けましたが、患者さんにも治療期間の延長で大きな負担を与えてしまったと反省しています。

 

一方歯科医師サイドからしても、治療期間が長くなるという事は、それだけ見れる患者さんの人数が減ることになり、売上の面で負担になる、もしくは治療費が上がる原因になり得ます。
歯科医師の年収は、全国の平均年収と比べればまだ恵まれている方ではあるかもしれませんが、それでもなお私も日々の医院経営に頭を悩ます事は多いです。
またインビザラインはグローバル企業であり、歯科医師がメーカーに支払う製品の価格も本社があるアメリカを中心とした世界の物価に依存します。デフレ状態の日本では相対的に割高となっています。
今回の訴訟も、根底には原価率が高く並行して多くの患者さんを見ないと利益が出にくい、インビザラインの製品に起因する問題も大きく絡んでいるのではとも感じました。

また中には歯と歯の隙間を削ることでスペースを捻出して叢生(ガタガタ)をきれいにしたり、歯の幅(アーチ)を拡大する事で歯を抜かずに治して行く方法を提案する場合もあります。
しかしながら過剰な切削は歯の寿命を縮めるリスクを伴い、また無理なアーチの拡大は治療終了後に後戻りという再度歯並びが悪くなってしまう状態を引き起こすリスクがあります。

本来であればワイヤーによる抜歯矯正が適切と診断される方を、マウスピースだから抜かずに削ったり拡大して治そうとしたり、リスクを感じつつ抜歯でのマウスピース矯正治療に持って行くことは適切とは言いかねます。

もしマウスピースで矯正治療を受けたいと考えている方がいらっしゃったら、上記の問題に対してご自身の歯並びが本当に治療可能か否か、よく診断してもらった上で治療を受けられる事が望ましいです。

また一方担当する歯科医師側も、メーカーが提供してくるクリンチェック(3Dシミュレーション)を鵜呑みにせず、自身で診断を下した上で、それに即した治療計画を立案し、その計画を実装したクリンチェックを細かく作って行く力量が必要になります。
おそらくワイヤーでの治療よりも難しいです。

また今回の騒動でインビザラインを提供していたインビザライン・ジャパン社は法律的には責任を負う立場ではないかと考えますが、これまでも症例数に応じて歯科医師をランク付けすることで、歯科医師側に多く症例を出すことを煽っていた一面もあるかと思います。

メーカーが歯科医師に与える称号はあくまで歯科医師側が治療を開始した(メーカーに注文をした)時点で症例数としてカウントされるため、患者さんの治療が適切に終了したか否かは称号には関係ないです。

今回の事件も担当医師が何らかの方法で日本に数人しか存在しない数多くの患者を診たという称号を持っていたことも、患者さんが法人を信用してしまう原因の一端になったようです。

真剣に治療に取り組まれてその結果として現在の称号を獲得された先生も沢山くいらっしゃるので一概に否定はできませんが、メーカーへの症例を出すことを目的として、実際の診断や適切な治療方針を捻じ曲げた治療が行われている側面もあるのではと考えます。

今回の一件でインビザラインそのものへの風当たりも強くなりそうです、実際自院への矯正希望の新患の方の中には、最初からワイヤーでの治療を希望されて来院される方も居ます。
既に治療のノウハウを蓄積している医院さんがやはりスムーズに治療を行えるため安定して患者さんに来ていただけると思いますが、マウスピース矯正治療を導入して間もない、もしくはこれから導入しようとしている医院さんの場合、新たに患者さんを獲得して行く事は以前よりも難しくなるだろうと個人的には感じました。

これらの問題に対して自院は、2年ほど前にその時の力量で継続していくことが難しいと判断し、それ以降新規の患者さんの治療は、途中遠方へ転居されたなどの特殊な事情を除き、ワイヤーでの治療のみにさせていただき、既存の患者さんに対しても、適時ワイヤーでリカバリー治療をさせていただいています。

中には治療期間が伸びた、期待していた装置での治療が受けられずご不快に思われている方がいらっしゃるかもしれない点は、この場でお詫びさせていただきたいです。

 

最後に、見た目が良いことはマウスピース矯正の大きなメリットだと言われていますが、あくまで私個人の意見としては、ワイヤー矯正で治療されている方を醜いなどとは全くもって思いません。
むしろ決して安く無い治療費用を捻出して、辛い治療に耐えて健康を目指される姿勢は、とても素晴らしいことだと感じています。
コロナ禍のマスク社会もあり、ワイヤーでの矯正治療へのコンプレックスが少しず軽減されているように感じます。

この先マスクをしない生活に戻っても、ワイヤー矯正治療中の方への視線が痛くない寛容な社会になって欲しいと感じました。